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【from Editor】純文学は聖域か(産経新聞)

 現場から届いた「該当作なし」の報に正直、どうしてと思った。1月14日に選考会が開かれた第142回芥川賞のことである。

 昭和51年に村上龍の『限りなく透明に近いブルー』が受賞して以降の10年は、「該当作なし」もさして珍しくなかったが、「選考委員の怠慢ではないか」という批判を受け、ことに今世紀に入ってからの10年は、毎回受賞作が選ばれてきた。出版不況へのカンフル剤的な効果が期待されている、という事情もあるのかもしれない。

 今回の候補者で、一番気になっていたのは『犬はいつも足元にいて』を書いた大森兄弟。これまで年齢や職業、国籍などで異色の受賞者が登場するたびに話題になったが、合作は初めて。しかも34歳と33歳の兄弟とあって注目が集まっていた。受賞すれば紙面で大きく取り上げることになる。

 いや、仕事柄だけでなく、個人的にも一番魅力を感じた作品で、内心、今回はこれで決まり、だったのだが。

 ここで説明しておくが、芥川賞は年に2回、日本文学振興会が文芸誌などに掲載された新人の作品から候補作を選出、作家らによる選考会を開いて受賞作を決める仕組みだ。現在の選考委員は、前出の村上氏のほか、石原慎太郎氏や山田詠美氏ら9人。

 そして今回の選考結果は冒頭に書いた通りなのだが、なんと期待の本作は、最初の段階で選から漏れ、その理由として「純文学は一人の作家が自分の魂で書くもの」という意見が出たという。

 これは腑(ふ)に落ちない。自分の予想が外れた負け惜しみではない。確かに芸術、特に感覚で鑑賞する分野では合作が難しいのは理解できる。だが、芸術による感動が魂のぶつかり合いであるなら、制作の段階で魂をぶつけ合ってもいいではないか。映画などはこれがないとできないし、純文学だって実は編集者との“合作”といっていいような作品も多い。

 本作は、河出書房新社が主催する文藝賞を受賞している。選考委員としてこの作品を選んだ4人の作家は、この「純文学聖域論」をどう思っているのか、ぜひ意見を聞いてみたい。

 さらに腑に落ちないのは、「該当作なし」にいたるのに1時間ほどしかかからなかったことだ。今回の候補作群が、前回、前々回に劣っているとは思えない。9人の作家が深夜まで議論した結論ならまだしも、やはり怠慢のそしりを免れないのではないか。(大阪文化部長 真鍋秀典)

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